デルコスカレー・ガネーシャ店長

最終話|インドの子どもは辛いカレーが好き?

お子様に人気なバターチキン

デルコスには、お子様と一緒にご来店されるお客様も、大勢いらっしゃいます。
特に、お子様に人気なのが、バターチキン。
これはバターをたっぷり使用した、コックリ濃厚なカレー料理。北インド料理の定番です。
デルコスでは隠し味に生クリームも加えているので、それほど辛みがなく、むしろマイルド。
具材は主に鶏肉だけというシンプルな料理ですが、とても味わい深くて一度食べたらやみつきになること、間違いなしです。

「子どもと一緒にお店へ行きたいのですが、辛くない料理はありませんか」
ときどき、そんなお問い合わせを受けることがあります。
もちろん、デルコスには辛くない料理もあるので、小学生くらいのお子様も大勢いらっしゃいます。
デルコス八王子本店ではカレーを作る際、合わせる具材によって3種類のベースを使い分けています。
ひとつめは、たっぷりトマトを使ったリッチな味わいの「トマトベース」。
ふたつめは、フレッシュなほうれん草をペースト状にするヘルシーな「ほうれん草ベース」。
そして三つめは、玉ねぎにカシューナッツを加えた「玉ねぎベース」。
特に、カシューナッツのまろやかな甘味が効いた「玉ねぎベース」のカレーは、スパイスの刺激を感じながらもナッツ特有のこくが加わっているので、それほど辛みはなく、むしろ、食後には口の中にまろやかな甘味が広がります。
八王子本店ではこれらのベースから1種を選んでいただいたのち、チキンやタマゴなどのトッピングを自由に追加していただけるシステムなので、「家では子ども用の、辛くないカレーしか食べたことがない」というお子様にも、安心しておいしいカレーを食べていただくことができるのです。

「インドでは、子どももカレーを食べるの?」
これも、ときどきお客様からお尋ねされるご質問です。
答えは「イエス」。
とはいえ、生まれたばかりの赤ちゃんからカレーを食べるわけではありません。
いきなりカレーを食べて体がびっくりしないように、少しずつ、スパイスに体を慣らしていくのです。

日本でも、生後間もない赤ちゃんは離乳食を食べますよね。
インドでも、同じ。生後半年を過ぎたら、離乳食のスタートです。
はじめに食べるのは、スパイスを使わないやさしい味わいのもの。
おかゆや果物、茹でた野菜などが中心です。
それから、チャパティ(全粒粉で作る、薄焼きのナンのようなもの)をミルクに浸して食べさせることもあります。
このあたりは、きっと日本とそれほど変わらないでしょう。
日本でも、生後半年くらいですりつぶした野菜や豆腐、白身魚、おかゆなどからスタートしますよね。
最初は大人が食べるものよりもずっと薄味にして、離乳食にかなり慣れてきたころから、醤油や味噌で味付けをします。
それは、赤ちゃんの内臓機能は未発達だから。
そのため、大人と同じような味付けでは塩分が多過ぎて、内臓に負担をかけてしまうのです。

インドの食文化

インドのベビーフード、キチュリ

インドもこれと同じ。
大体生後8か月を過ぎたころから、ターメリックやクミンなど、それほど辛くないスパイスを少しずつ赤ちゃんに与えます。
ただしこれには、風味づけや味付けという目的もありますが、スパイスの効能を期待して、という意味合いも多く含まれています。
というのも、ターメリックやクミンには、おなかの調子を整えたり身体をあたためたりする効果があるので、それらを積極的に体へ取り入れていきたいから。
「医食同源」という言葉がありますが、まさに、インド料理はそれをかたちに表したようなもの。
たとえば、普段インド料理に使われているレギュラーメンバーの香辛料には、次のような役割があります。

種類 役割
ターメリック カレーの黄色の素となるスパイス。
強い抗菌作用があり、消化や新陳代謝を促す。
コリアンダー 胃腸の働きを促進し、新陳代謝を高める。
クミン カレーの香りの中心となるスパイス。
食欲増進、消化促進などの効果がある。
下痢や腹痛にも効く。
クローブ 胃の健康を保つ効果や、口臭の予防、痛みを軽減する効果などが期待される。
カイエンペッパー
(チリペッパー)
辛みのもと。
血行を促進したり、脂肪の代謝を促したり、体脂肪を燃やしたりする。

大人のインド人は、ほぼ間違いなく、こうしたスパイスを日常的にとっています。
だから、赤ちゃんのうちから少しずつこれらの刺激に体を慣らし、強い胃腸を育てていくことが大事なのです。
では、いつごろからスパイス全般を食べられるようになるのかといえば、大体生後1年半を過ぎた頃。
1歳半ごろを目安にチリやブラックペッパーなどの辛みのあるスパイスを少しずつ与えます。
そして、徐々にスパイスの種類や量を増やしていき、2歳になるころには大人と同じメニューを食べられるようになります。

ユニークなことに、インドではスパイス入りのベビーフードもあります。
日本のベビーフードはインドに比べて非常にバラエティ豊かで、来日して、初めてスーパーでベビーフードコーナーを見た時はとてもびっくりした記憶があります。
なかでも、僕がインドでよく食べていたキチュリに似た食べ物を見たときは、なんとなく懐かしい感じがしました。
キチュリとは、日本でいえばおかゆのようなもの。
おかゆといっても原料とするのは豆がほとんどで、特に緑豆を使います。
豆類には良質のたんぱく質が豊富に含まれていますが、豆類の中で、最も消化しやすいのが緑豆。
だから忙しい時にさっと食事を済ませたいという時には、キチュリはとても便利な食べ物で、赤ちゃんの離乳食としてだけでなく、大人が朝食や軽食として食べることも多いのです。
面白いことに、「雨の日はキチュリを食べる」というインド人も珍しくありません。
それは、キチュリには胃腸によいとされるウコンやクミンがたっぷり使われていて、体を冷やさない効果があるから。
これも医食同源のインド料理らしい考え方です。

キチュリの作り方はとても簡単で、豆と白米をブレンドして水に浸し、あとはカットした野菜と一緒に圧力鍋で炊くだけ。
野菜は人参、かぼちゃ、ほうれん草などを合わせるのが一般的です。
炊き上がったら、熱いうちにギーや塩、スパイスを加え、軽くマッシュして出来上がり。
ちなみにギーとは、無塩発酵バターを煮詰めて、水分やタンパク質、糖分などを取り除いた高純度のオイルのこと。
簡単にいえば、バターを加熱してできる固形成分のことで、火を入れている過程で水分やたんぱく質などが取り除かれるため、食品としての変性がなく、バターよりも腐りにくいのが特徴。
バターは冷蔵庫で保管しますが、ギーは常温保存ができるのです。
最近では健康ブームで、世界的にギーが注目され、アメリカでは「最も身体に良い油脂ベスト5」の第1位に選ばれたり、「奇跡のオイル」と言われたりすることもあるとか。
僕たちインド人にしたら、昔から当たり前のように食べている日常的な食べ物で、料理に使ったり、焼き立てのチャパティに塗ったり、ホットミルクに垂らしたりするほか、プージャという祈りの儀式にも欠かせないものなので、「どうしていまさら、世界でそんなに騒がれているんだろう」と不思議です。
でも、それだけインド料理の奥深さや魅力が世界で注目されているというのは、嬉しい限り。
僕たちインド人の誇りでもあります。

デルコスのキッズプレート

デルコス『キッズプレート』 500円+税

デルコスでは、「辛いものは大丈夫ですか」とお聞きしております

さて、こんなふうにギーを使ったキチュリを食べながら育った赤ちゃんが、完全に大人と同じ辛さのカレーを食べられるようになるのは、だいたい8〜10歳頃。
カレーが食べられないうちは、離乳食や、薄味のおかゆなど。
そこから少しずつスパイスに体を慣らし、小学生になる頃には大人と同じカレーを食べられる体になっている。
こうやって、インド人はカレーとともに成長を重ねていくのです。

でも、日本人のお子様は当然ながら、そうしたステップを踏んでいません。
スパイスになじみがないお子様が、いきなりインド料理を食べれば体がびっくりしてしまうでしょうし、腹痛を起こしたりする危険もあります。
だから、お店にお子様連れのお客様がいらっしゃったら、僕たちは必ず「辛いものは大丈夫ですか」とお聞きするようにしています。
そして、まだ辛いものになじみがなさそうな感じなら、バターチキンカレーなど辛みより甘味やコクが強いメニューを。
もし辛いものに少し慣れているようなら、大人と同じか、あるいは、少しだけカイエンペッパーを控えめにして、まろやかさを引き立てたものを。
様子を見ながら、辛さを加減するようにしています。
そうやって少しずつインドカレーになじんでいき、やがて僕たちがまったく加減しなくても、大人と一緒のメニューを食べることができたら……。
僕たちは料理をしながら、お子様たちのそういう姿を想像します。
そしてそんな日が訪れることを楽しみにしながら、僕たちはいつもお客様をお迎えしているのです。

インタビュアー:シャンティ・ヨガンヌ

デルコス八王子本店

年中無休

<イートイン>
【ランチタイム】
 11:00~17:00(L.O. 16:30)
【ディナータイム】
 17:00~22:30(L.O. 22:00)

<テイクアウト>
【ランチタイム】
 11:00~17:00(L.O. 16:30)
【ディナータイム】
 17:00~22:30(L.O. 22:00)

<UberEats>
 11:00~22:00

お得なランチ、ディナーセット、パーティープランもあります。
テイクアウト、企業向けデリバリーも承ります。

木のぬくもり感じる、アットホームなインドレストラン
JR北八王子駅から徒歩5分。国道20号線の大和田坂上交差点角にある八王子本店は、ゆったりくつろげる雰囲気が特徴です。店内は、テラス席を含め55席。おひとり様から大人数でのパーティまで、幅広く対応しています。

アクセスマップ

所在地 デルコス八王子本店|〒192-0033 八王子市高倉町1-10-1F
連絡先 042-648-5227|FAX. 042-660-5739